最悪の日本航空再建シナリオを予測する
JALに出資する外国航空会社と投資ファンドは、労せずして数千億円のJALの資産をいただいて高笑い、反対に利用者は赤字の穴埋めをさせられ、地方住民は路線を失って泣く。こんな悲劇的な結末が目前に迫っているのではないでしょうか。
濡れ手で粟の数千億円、得をするのは誰か?
検討されている日本航空の再建策によって得をするのは誰なのか、損をするのは誰なのか。
結論から先に言いますと、損をするのは地方の住民と航空機の利用者、得をするのは日本航空を買った企業と再建に携わった人たちということになるでしょう。長銀や日債銀の売却や郵政民営化と同様、過去のさまざまな形の国民の富の収奪と全く構造が同じなのですから、その結果はもう今から見えています。「おそらくこうなるであろう」と予想される、そのからくりをご説明します。
現在行われている資産査定の結果、仮に「日本航空という会社は5000億円の債務超過である」という結果が出たとします。しかしそれはタスクフォースが収益還元法と清算価値評価を巧妙に使い分ける事によって、その資産を著しく低く評価した結果であって、実際のところの債務超過は例えば2000億円といったところでしょう。
日本航空は、9つの労働組合を抱え、人件費を削減できないことでコスト競争力を失っているわけですから、まともな経営者が経営すればトントンの収益に持っていくのは難しくないことです。むしろ簡単なことであるとすら言えます。「JALの赤字は、政治家がムリヤリ圧力をかけて、地方にできた空港に不採算路線を飛ばさせたからだ」といった論調も一部の新聞に見られますが、それは事実ではありません。地方切り捨て拝金主義者のプロパガンダとも言えます。日本航空は経営能力がないから行き詰まっただけだし、そのダメ会社を国土交通省がスポイルしたからだけなのです。
しかし先ほどの5000億円の債務超過という評価は、いつまでたっても黒字を出せないという収益還元法に基づいているわけですから、この評価は不当です。郵政民営化の時に行われた資産査定のように、路線価評価であれば600億円である土地を、「収益還元法で評価したら100億円になりますから、100億円で買ってあげましょう」といったたぐいのまやかしです。
そうしたインチキ臭いデュー・ディリジェンスの結果に基づいて、穴埋めのために5000億円の公的資金が日本航空に投入されることになるでしょう。実際は、その時点で日本航空は純資産3000億円の会社になるのです。
しかし表面上は資本がゼロの会社となり、そのうえで、「資本強化を行う」ということで、1000億円程度が「外資系航空会社が20%、それ以外を投資ファンドが日本航空に出資する」といった形でJALの支配権が赤の他人に移ると思われます。
そうするとこの時点で、出資者たちは資産4000億円の企業を1000億円で手に入れることができるわけです。まさに濡れ手に粟です。
日本航空の赤字を穴埋めするのは利用者
ところで前原国土交通大臣は、空港整備特別会計を一般財源化する方針を打ち出しています。空港整備特別会計は、飛行機を利用する利用者が片道あたり5000円を負担している空港利用料金をプールして、空港の建設や整備に充てるための特別会計です(沖縄航路は例外的に免税とされています)。燃料税と併せると年間5300億円利用者が負担していることになります。
ところがこの空港利用料金を、「JALだけは再建のためには免税にする」という方針も一部の新聞に書かれています。今、99番目の空港として茨城空港を作っていますがこれが完成すればもう新しい空港をつくろうという話はありませんし、私も必要ないと思います。それなら空港利用料金は撤廃すればよいと思うのですが、そうせずに一般会計化しようと前原大臣は言っているのです。
平成21年度の空港利用収入は3000億円ですから、日本航空は2000億円近くを国庫に納めていると思われます。しかし日本航空については、空港利用料金が免税されるということになれば、日本航空のキャッシュフローはその瞬間から大黒字になることになるでしょう。つまり利用者は、JALに乗るたびに往復で一万円を日本航空の赤字穴埋めのために寄附することになるわけです。負担は利用者、丸々得をするのは少々出資した投資ファンドなどの外国勢ということになるでしょう。仮に、日本航空が免税にならなくても、一般会計化されれば、財政赤字の補てんの原資となるだけで、財務省の思惑通りとなって喜ぶのは財務省のみです。 国土交通省か財務省かの違いだけです。
JALを本来の価値より安く見積もってはならない
企業の価値は、企業が存続する場合か、解散する場合かによって評価が変わると思います。
日本航空再建の大きな問題として、年金の積み立て不足が3300億円あることが問題とされていますが、もし日本航空が今後存続しないのであれば、労働債権は積み立て不足であるとはいえません。にもかかわらず、労働債権以外の資産査定は存続可能性がない前提で、それを収益還元法で評価して、不当に低い価値評価を作り、債務超過額をいたずらに増やすというのは全く理屈が通らないことです。
しかしこの手法は小泉改革以後、金融機関や専門家がよく使ってきた手なのです。例えば当社のガソリンスタンドが資産評価される場合、路線価評価額は当然あるわけですが、黒字が出ていなければ収益還元法ではゼロ評価されてしまいます。もしくは、清算価値(解散価値)として土地代から上物の解体費用を差し引いて、同じくゼロ評価になるのです。いずれにせよ路線価評価額よりも低い金額でしか評価されません。
だいたい路線価評価額というのは国家による資産の評価額であり、それより低い金額で相続税を申告したら脱税の罪に問われてしまうれっきとした評価額です。収益還元法を使えば、そうした金額よりもずっと低く日本航空の資産評価を抑え、本来の価値よりも安く外部に買いたたかれる道をつくってしまうわけです。また、私たちは市町村に対し、固定資産税を固定資産税評価額を基準に支払いますが、その価格は路線価よりも高いのです。
タスクフォースの調査を参考にして、再建策を策定するチームが、そのような手法をとらないという保証があるでしょうか。
このままでは今回の日本航空再建も、このようなお馴染みの不良債権処理スタイルで、善良な国民の資産を誰かが不当に搾取する形で決着する可能性が高いと思います。許し難いことです。