岩崎芳太郎の「反・中央集権」思想

HOME > JAL再建策にモノ申す > 日本航空再建問題は「小泉改革の延長戦」 part1

JAL再建

ページの先頭へ

日本航空再建問題は「小泉改革の延長戦」 part1

この10年、日本人の資産は「改革」の美名の元に、外国勢力によって安く買いたたかれて来ました。その愚が、全く同じメンバーと手法によって繰り返される可能性があるのがJAL再建問題なのです。

いまだ繰り返される欧米による日本の資産収奪

日本航空再建問題の本質とは何なのか考えてみましょう。
私は「農耕民族と狩猟民族」という区分が万能であるとは思いませんが、しかし農耕民族と狩猟民族では国家の繁栄のさせ方が違うということは言えるのではないかと思います。

農耕民族は、集団で労働をして、何もないところから農作物を産み出して暮らしている人たちですから、ビジネススクール流の言い方をするとWin-Winの社会関係を築くことが可能です。投下される労働や資本は農地を拡大し、付加価値が農産物という自然の恵みなのですから。しかし、狩猟民族の世界では、それが当たり前ではありません。Win-Loseが彼らの原則なのです。
大航海時代以来、彼らが行ってきたのは、先住民族の富の収奪に過ぎませんでした。アングロサクソンの視点でだけ、北南アメリカ大陸がフロンティアだったのです。南アメリカ・アフリカ・アジアが植民地化された19世紀・20世紀前半の歴史的事実を見れば、それは明らかです。

いまだ繰り返される欧米による日本の資産収奪日本はそうした狩猟民族たちの帝国主義世界の中で、アジア農耕民族として植民地化されず、唯一生き残ってきた国といえるでしょう。第二次世界大戦が終わり、おおっぴらに他民族からの収奪はできなくなりました。農耕民族である日本人は、コツコツと努力をして一時は世界一ともいわれる経済力を手にしたのです。
しかし狩猟民族である欧米諸国は、アジアで繁栄を謳歌している日本に対して、日本の優位性を崩すために、この20年間にさまざまな戦略的なアプローチをしかけてきました。市場原理主義、コンプライアンス、減損会計、地球温暖化問題、日米構造協議、国際会計基準、BIS基準、規制緩和といった、彼らのルールをグローバルスタンダードとして押し付けることによって、日本は彼らに富を収奪されて、国力を減衰していると私は思います。表向きは立派なルールでも、その裏にあるのは収奪のための仕掛けだったのです。

「デューディリ」で身ぐるみ剥がれる日本企業

彼らのやり方は、経済価値を計る彼らの物差しをこちらに押しつけて、それを悪用して収奪を図るものです。
日本人はそうしたルールを簡単に受け入れてしまいます。一部の弁護士や公認会計士、不動産鑑定士などは、まるで思惑があって欧米人の手先として受け入れているのではないかと思わずにはいられません。日本の大企業の経営者たちも、自分の会社の製品を欧米に輸出するため、国際金融市場から資金を調達するために、無節操にすべてを受け入れました。官僚たちもなぜか国益を守ったとは思えません。

「デューディリ」で身ぐるみ剥がれる日本企業単純化して説明すると、狩猟民族が「日本企業を安く買いたたきたい」と思ったら、企業の資産価値を計るときに、その資産の現在価値や将来価値を貶めるようにすればいいわけです。これすなわち、国際会計基準であり、減損会計であるわけです。しかし本来、資産価値というのは、見方や立場によっていろいろあると思うのです。それを強引に低く見積もって買いたたくのが彼らのやり方です。
とはいえそのようにして低い資産評価を受けたとしても、企業が資産を売る必要がなければ、みすみす他人に虎の子の資産を渡す必要はありません。しかしその会社がお金が回っていない状況に追い詰められたら、そうした「グローバルスタンダードの価値基準」に従って、泣く泣く資産を売るしかなくなってしまいます。なぜなら、日本人の蓄積した莫大な金融資産は既にファンドを通じ、外国人の支配下に置かれてしまっていたからです。

では、日本企業はここにきてなぜお金が回らなくなってしまったのでしょうか。実は農耕民族型の社会では、借金をするというのは悪いことではありません。日本企業もちょっと前までは巨額の借金をしていても平気だったのです。視点を変えれば、日本は欧米とは違い、他人資本主義だったからです。
しかし、BIS基準を絶対ルールとした金融検査マニュアルの登場によって、「借金が多い会社は悪であるから、早く借金を返しなさい」という新しいルールがいきなり登場したわけです。
この金融検査マニュアルは、銀行の「不良債権問題」に端を発した金融危機から始まっています。そして、いつのまにか「不良債権」とは借金の多い企業の事を指すようになってしまったのです。元々は、不良債権とは銀行の貸出のうち、回収不能なものを指しました。それが、いつの間にか借入金が多い会社のことを「不良債権会社」として指すようになったのです。
しかも、この国では本末転倒の実態を踏まえない、金融検査マニュアルの数値基準が一人歩きし、少ない利益でもやっていける会社に破たん懸念のレッテルを貼り、不良債権会社を増殖させていったのです。

前述したように、他人資本主義のこの国では事業者は最低金利を払えば、銀行は継続的に取引してくれたのですが、それが出来なくなりました。金融検査マニュアルで、10年間で元利あわせて返済できるだけの利益(キャッシュフロー)が出ない会社は「不良債権」と見直されて、資金を調達できないようになったのです。これが、買い手の言いなりで、しかるべき資産を泣く泣く収奪されなければならなくなった事情です。

「デューディリ」で身ぐるみ剥がれる日本企業郵政民営化の時に行われた資産査定のように、路線価評価であれば600億円である土地を、「収益還元法で評価したら100億円になりますから、100億円で買ってあげましょう。国際会計基準であれば減損会計ですからこれは当然の評価なのです」と彼らは言います。しかし常識的に考えたらこんなばかげた話はありません。
このようにキャッシュフローが不足していて、債務超過になっている会社のケースでは、弁護士、公認会計士、不動産鑑定士の手によって不当に資産を低く評価され、徹底的に買いたたかれ、もぎとられていったというのが、金融危機以来ここ10年の日本で起きたことです。
こうした資産収奪のための作業のことを「デュー・ディリジェンス」というわけです。本来のデュー・ディリジェンスという言葉の意味は、「ぎりぎり最後の瞬間まで一生懸命努力する」という意味なのですが、日本ではあっさり降参して身ぐるみ剥がれるための作業のことを指しているのはおかしなことです。

「デュー・ディリジェンス」は本来、M&Aもしくは不動産等の証券化の時に行われたことで、金融業界の用語です。いずれにせよ、「ゴーイング・コンサーン」(存続可能)を前提としての価値評価であり、「ゴーイング・コンサーン」を前提としなければ、正しい評価ではありません。たとえば、清算する事業や会社の価値評価はあくまでも解散価値でなければなりません。
しかしながら、今の日本では、存続性を疑問視した会社に対して、「デュー・ディリジェンス」を行い、しかも収益還元法と清算価値の低い方を意図的に合計することにより、債務超過を捏造して、その会社を破たんさせるということが、当然のように行われています。これは「かんぽの宿」等の郵政の資産の収奪的売却価格を見れば、理解できると思います。

前の記事次の記事

小泉竹中改革を総括する小泉竹中改革を総括する
ゲストと語るゲストと語る
地方経営者のホンネ地方経営者のホンネ
「憲法改正」で真の地方主権を「憲法改正」で真の地方主権を
JAL再建策にモノ申すJAL再建策にモノ申す
郵政民営化の欺瞞郵政民営化の欺瞞
郵政不動産払い下げ問題郵政不動産払い下げ問題
郵政ファミリー企業見直し疑惑郵政ファミリー企業見直し疑惑
あなたもできる裁判のススメあなたもできる裁判のススメ
あなたもできる告発のススメあなたもできる告発のススメ
インターローカルTVインターローカルTV
岩崎芳太郎著「地方を殺すのは誰か」岩崎芳太郎著「地方を殺すのは誰か」

これでいいのか鹿児島
絆メール

ご意見ご感想/情報をお寄せくださいご意見ご感想/情報をお寄せください

講演依頼・取材依頼はこちらから講演依頼・取材依頼はこちらから