岩崎芳太郎の「反・中央集権」思想

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失敗の見えていた「郵政改革」を推進した力学とは

その3 田中派ならもっとうまく改革したはずだ

     ジャーナリスト 町田 徹氏 

私利私欲を満たす改革シナリオの作者はいたのか?

岩崎 そうすると、小泉さんが言い出した「日本をよくする構造改革」は、見方を変えれば小泉さんの個人的な恨み、私怨が原点にあるということですよね。
 つまり、そういう深層心理の下で彼がずっとやってきたのは、実は田中派の基盤つぶしと言えるのですね。確かに田中派は金権的な側面がありますし、官僚にもいい思いをさせてやってきたかもしれません。しかし考えてみると、田中派は官僚にお駄賃程度のものはやったかもしれませんが、「政治家が主人で官僚は召し使いである」という主従関係は崩さなかったと思うんです。少しは子分においしい思いをさせなければ働いてくれませんから、それは必要なことだったのでしょう。つまり田中派は、本末転倒なことはやらなかったのではないかと思うんです。
 しかし小泉改革は、「とにかくそれを壊しさえすればいいのだ」ということで行われたのではないでしょうか。

町田 そういうことでしょう。小泉さんは、その程度の感覚だったと思います。

私利私欲を満たす改革シナリオの作者はいたのか?岩崎 そうすると、私がとても不思議なのは、郵政改革の結果は結局、一部の人間の私利私欲を満たすだけのものに終わってしまったわけですが、それは最初からそのようなシナリオを書いた人がいたのかどうかということです。
 つまりシナリオを書いた人間はいたとしても、「これは純粋に日本をよくするための改革なんだ」ということを、マスコミのみなさんも、国民の大多数も「その通りだから、公明正大にやろう」と納得し、きっちりと実行していれば、こんなひどい結果にはなっていない。でも、そんなきっちりとした郵政改革がなされたとはどうしても思えないのですが……。

町田 もし今の郵政改革の結果をあらかじめ予測して「してやったり」と思っている人がいるとするならば、いわゆる「ハゲタカ」のみなさんはそうかもしれませんが、竹中さんですらこのような結果は想像していなかったかもしれませんし、小泉さんにいたっては、「田中派をぶっ壊したい」と思っていただけで、例えば「民営化した郵政会社が4分社化の形になる」とか頭にあったとは思えないですよ。
 あの当時の会議の資料を丹念に読んでも、小泉さんはただ単に「早くやれ」と言っているだけで、形についてはこだわっていません。

岩崎 そうなんですね(笑)。

竹中氏にできなかったこととは

町田 それからさっき岩崎さんがおっしゃったとおり、田中派の人たちは官僚に飴をやっても母屋を取られるようなことはしていません。国益の範囲にとどまるように役人を使っていたわけですが、竹中さんにはそれができませんでした。
 実はここには大きな誤解があります。郵政官僚たちは、郵政民営化には反対の立場ではなかったんです。NTTの民営化の成功を見ていますから、「自分たちも民営化して、独占企業としてうまくやっていきたい」と考えていたんです。民営化は時代の流れですから、「いかにおいしい民営化をするか」を考えていたというのが正しいでしょう。

 もし田中角栄が郵政民営化をやったとしたら、「母屋は譲れないが多少はおいしい思いをさせてやるからうまくやれ」と郵政官僚を使ってやったでしょう。だけど竹中さんは、官僚性悪説の強い方で、まったくと言うほど郵政官僚を信用しなかった。それで自分の私的な子分というか、他省庁の官僚たちやコンサルタント、学者らにプランをつくらせたわけですが、それではやっぱりうまくいかなかったわけです。私は小泉郵政民営化騒動の遥かに以前から郵政民営化論者です。そして、竹中さんのプラン作りのプロセスを取材していますから、当時、「こんなやり方では大変なことになるぞ」と竹中さんのブレーンたちにも忠告しました。が、残念なことに、彼らは聞く耳を持ちませんでした。

 それから、メディアのお話がありましたが、ほとんどのメディアは、郵政改革の中身を検証しなかったんです。政策の意味や、この郵政改革の手法で何がどうなるかといった難解な話に、マスコミの関心はありませんでした。私の経験では、そういう詳細を検証する記事を喜んで掲載してくれるマスコミは皆無に近かったですね。わかりやすさとか、おもしろさといったものだけを追求したがるのが今のメディアの風潮ですからね。



町田 徹(まちだ てつ)氏 http://www.tetsu-machida.com/
経済ジャーナリスト、ノンフィクション作家。 1960年大阪府生まれ。
神戸商科大学(現兵庫県立大学)卒。米ペンシルバニア大学ウォートンスクールに留学。
甲南大学経済学部非常勤講師。
日本経済新聞社における18年間の新聞記者時代に、金融制度改革、郵貯肥大化問題、放送デジタル化、通信回線の接続ルール作り、NTT分離・分割問題、米1996年通信法改正、日米通信摩擦、米金融政策、米インターネット振興策などを取材し、多くのスクープ記事をものにする。  雑誌編集者を経て独立し、雑誌への寄稿や講演活動も手掛けている。




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