岩崎芳太郎の「反・中央集権」思想

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失敗の見えていた「郵政改革」を推進した力学とは

その4 みんなの無関心が悪い奴をのさばらせている

     ジャーナリスト 町田 徹氏 

「いったい何のための改革なのか」が曖昧だった

岩崎 そうするとこういうことですかね、仮に10人の人がいて、その中で1人悪党がいました。2人は自分の私利私欲だけで動く人間でした、残り7人は善意の人間でしたと。そうすると、日本ではこのような羊頭狗肉的な不幸なことが起こってしまうわけですか。それはすごく怖いことですね。

「いったい何のための改革なのか」が曖昧だった町田 しかし肝心なことについて、つまり「ではどのようにすればよいのか」というアイデアを、小泉さんはほとんど持っていなかっその7人が、善意というよりは無関心であるということが問題なんです。その7人が結果として悪い奴を見逃す原因を作っていると思いますよ。
 郵政問題だけじゃないですよ、そうやってこんなにマイナス成長が続き、人口も減って、国際的な地位が低下して、どうやってこの先日本は生きていくんでしょうね。
 その7割が悪党でも私はいいと思うんです、日本や日本企業が「どうやって生きていくか」を真剣に考えてくれれば……ね。われわれはグローバルな生存競争をやっているんですから。

岩崎 しかしそこでまた問題なのは、日本では「国益」というのは「一人ひとりの国民の富の総和のこと」を意味していないということです。私は本にも書きましたが、日本で一般的に考えられている国益というのは、国家権力の財布の中身に話しがすり替えられて、結局は「孫や子供たちに借金を残さない」といったあいまいな概念でしかありません。
 ですから構造改革や郵政民営化の時にも、「改革をやるのはいったい誰のためなのか、何のためなのか」が厳しく問われずに、本質が全くの別物にすり替えられてしまっているように思うんです。

町田 おっしゃる通りだと思います。「小泉劇場」という言い方が言い得て妙で、「何をやりたいのかわからないけれど、何かいいことをやりそうだ」とみんなに思わせることで成功したわけですから。
 「郵政民営化こそがすべての改革の根幹である」といわれて改革してくれるのかと思ってみんな納得しているわけですが、改革の中身はいまもってだれも検証していません。それはメディアの仕事のひとつでもあるはずなのです。
 無関心な7割の人たちに、「怒りをもってほしい」と伝える機能もメディアの仕事のはずなんです。みんなにもっと関心を持ってもらわないと。われわれは言い続けるしかないと思います。それと、一緒にやってくれる仲間を見つけるのも大切ですよね。

「郵政再編」の構図

岩崎 町田さんから見て、郵政改革の問題点を修正するためには、どうすればよいと思われていますか?

町田 まず、郵政事業の収益構造を明確にすべきです。つまり、日本郵政は決算にお化粧を施して、問題をわかりにくくしていますが、「郵便局会社は儲かっていない」ということを隠さず、明確にさせることだと思います。そうすれば、4分社化は失敗だったということが議論の余地のない事実として浮かび上がってくるはずなのです。さらに言えば、郵政3事業と言っても、収益構造はかなりいびつで、郵便貯金が全体の6~8割を稼いでいる構造の改善が難しいことも鮮明になってくるのではないでしょうか。簡易保険や郵便は郵便貯金による内部補助なしには生き残れないかもしれません。
冷静な議論ができるようになれば、総務官僚は、2分社化を試みるのではないかと思います。持ち株会社と郵便事業会社と郵便局を一体化し、その子会社としてゆうちょと簡保をくっつけた金融子会社を作ろうと試みるのではないでしょうか。
 あるいは、いま5つある会社をすべて合体して二分社化し競争させるということも考えているかもしれません。その場合はお互いが公正な競争を行って高め合っていけるような仕組みをビルトインするべきだと私は思っています。さらに細部で言えば、「松原委員会がやったファミリー会社の統合は競争を根絶するもので、マイナスだった」ということをはっきりさせて、そういうムダを温存しようとする仕組みを見直すことも必要でしょう。

岩崎 そうですね。私は地方経営者としての目線で見たときに、すでに郵便に関してはユニバーサルサービスとかシビルミニマムは崩壊してしまっていると考えています。政権党は、この状況をなんとかする代案を出していただいて政治的に対処していただきたいものです。「経営者はそのような政治向きのことには頓着しなくてよい」という考え方もありますが、私はその考え方は間違っていると思います。
 地方企業が政治的なことを考えなくなって、反面ここ10年は経団連にいるような大企業が永田町や霞が関に対する発言力を強めてきました。その結果として中央に収奪された地方企業はさらに弱っていくという悪循環にはまっています。「この状況をどうするべきか」ということを、私は常に考えています。その結論は、最初に申し上げた中央集権のシステムを変えないと、この状況の根本的な修復は難しいと思うんです。



町田 徹(まちだ てつ)氏 http://www.tetsu-machida.com/
経済ジャーナリスト、ノンフィクション作家。 1960年大阪府生まれ。
神戸商科大学(現兵庫県立大学)卒。米ペンシルバニア大学ウォートンスクールに留学。
甲南大学経済学部非常勤講師。
日本経済新聞社における18年間の新聞記者時代に、金融制度改革、郵貯肥大化問題、放送デジタル化、通信回線の接続ルール作り、NTT分離・分割問題、米1996年通信法改正、日米通信摩擦、米金融政策、米インターネット振興策などを取材し、多くのスクープ記事をものにする。  雑誌編集者を経て独立し、雑誌への寄稿や講演活動も手掛けている。




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