町田　逆に私から岩崎さんに伺いたいのですが、郵便も含めた全国一律のネットワークサービスを維持するためには、どうする必要があるのかについて、教えていただけないでしょうか？

岩崎　すべての地域で同一のサービスを提供するためには、ネットワークの維持が必要なんです。人口の多い都市部と人口の少ない地方があるわけですから、市場の厚身と薄身があります。市場が薄いところは、市場が厚いところから内部補助を受けることによって、全体のネットワークが初めて維持できるわけです。
　市場の厚いところだけを切り取って、「それ以外のところはサービスを提供しません」というのでは、ネットワークは成り立ちません。そのためには公的な需給調整が必要です。それはとても微妙なものです。

町田　それはとても難しい調整でしょうが、それを公的に行わなければネットワークサービスは成り立たないわけですね。

岩崎　国家権力はそこから逃げてはならないのです。それは医療などと基本的に一緒なんだと思いますよ。

町田　郵政民営化の時に、「ユニバーサルサービスの維持」は、郵政改革法案の付帯決議に入っているわけですからね。ただ、日本でも米国でも、電話ならば、そのためのユニバーサルサービス・ファンドの設置など公的、制度的な担保のためのシステム構築に配慮がされてきたのに、郵政民営化は、そうした歴史的な経験を無視しました。付け焼刃のものしかなく、あまりにも杜撰ですよね。

岩崎　郵便の消印をもって締め切りとするようなこともあるわけで、ユニバーサルサービスとしての郵便制度の維持は、憲法で保障している基本的人権の範囲だと思うんです。であるならば、「小泉改革の時の郵政民営化は、憲法違反ではないのか」という議論が起こってもおかしくありません。明治の人たちは近代国家の国民が享受する人権のひとつとして郵便を整備したのではないでしょうか。
　昭和30年代、40年代には、基本的人権を保障していないと裁判で訴えて勝ったケースもありますからね。私も訴えてやろうかと思うくらいですよ。

町田　そうですか(笑)。

岩崎　ですから結論としては、全国一律のサービスを維持しなければならないもの、たとえば郵便、高速道路、電電公社などは民営化してはいけないんです。
　これらを民営化して喜んでいるのは、マーケットが厚い都市部に住んでいる人たちだけでしょう。その逆に、地域ごとに効率化が可能なものが民営化してもよいと思います。その代表は水道事業であり.公営交通です。
　まったくばかげているのは、ＮＴＴの光ファイバー網が典型なのですが、僻地に住んでいる人が民営化によって不便になったから、建設省や経済産業省が予算を取ってきて、「セーフティーネットとして税金を使って手を差し延べましょう」と言っていることです。それは間違ってますよね。都市部で儲けた金を内部補助として採算に合わない地方で使うのが正しいわけですから。だからこそ初めて独占が許されるはずなのに、ＮＴＴはそういうところは税金を使わせておいて、巨額の利益を上げているわけですから。

町田　ネットワーク維持には、公的な管理か監視がある程度必要なんですね。独禁法で、市場の欠陥を補うのに近い発想ですが……

岩崎　そうやって電話網も整備してきたんじゃないですか。今のままでは、日本では永遠にユニバーサルサービスとしての光ファイバー網は整備されないと思いますよ。

町田 徹(まちだ てつ）氏　http://www.tetsu-machida.com/
経済ジャーナリスト、ノンフィクション作家。 1960年大阪府生まれ。
神戸商科大学（現兵庫県立大学）卒。米ペンシルバニア大学ウォートンスクールに留学。
甲南大学経済学部非常勤講師。
日本経済新聞社における18年間の新聞記者時代に、金融制度改革、郵貯肥大化問題、放送デジタル化、通信回線の接続ルール作り、ＮＴＴ分離・分割問題、米1996年通信法改正、日米通信摩擦、米金融政策、米インターネット振興策などを取材し、多くのスクープ記事をものにする。　 雑誌編集者を経て独立し、雑誌への寄稿や講演活動も手掛けている。